その日、県知事であるガウリイは中学校へ来ていた。
補佐をしてくれているゼルに「もう一度中学からやり直したらどうだ」と言われたからではない。
いつのまにかスケジュールに授業参観や先生方との懇談会が入っていたためだ。
まあ、スケジュール自体ゼルが管理しているのだからしかたないのだが。
今日もいつも通りの一日になりそうだ。
ガウリイは暑くなりそうな初夏の日差しに目を細めながら、静かに校舎を見上げた。
そして、事件は休憩時間におきた。
「ちょっとそこどいて!」
「うわっ」
ちょうどドアを開いたタイミングで、小さい女の子が飛び込んできた。
軽い足音は聞こえていたが、まさか教員用男子トイレに入ってくるとは思ってもいなかったから、思わず小さく声をあげてしまった。
「いい?あたしの事は他言無用よ!」
振り返って脅すようにそういうと、少女はセーラー服の襟をひるがえしながら、ドアを閉めないまま個室の影に隠れた。
「なんだぁ?」
そこへ、一拍置いてから誰かが走り寄ってきた。
「ああ知事。今こちらに女子生徒が来ませんでしたか?」
頭頂部が寂しくなった中年の男……確か、教頭だと紹介された気がする。
「あ、いや、見てないが……なんかあったのか?」
「ああいえ、来てないなら良いんです。すみませんね。突然」
そういうと、教頭はへりくだったような笑みを浮かべつつ頭を下げると、落ち着きなく辺りを見回しながら去っていった。
「おまえさん、一体何をやらかしたんだ?」
足音が十分に遠ざかってから少女が隠れた個室に向って声を掛けると、ひょこっと小さな頭を覗かせて、じっと耳を澄ませるように様子をうかがった後で大人しく近寄ってきた。
「あたしは悪い事なんてしてないわよ?」
挑むように顎を上げ胸を張ると、昂然と言い放った。
「花も恥らう乙女にたいして、怪獣だなんて失礼なことを言うやつらに、ちょーっとお仕置きしただけなんだから!」
この日を境に、この中学校の周辺で金髪の男の姿がよく見かけられるようになったとかならなかったとか。
-終-
以上、「知事=ガウリイ」と「怪獣=リナ(中学生)」との「トイレで遭遇」ネタでお送りしました。(^^
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